THEME: 絵画の叙情性とそれを実現する造形
Sentiment of Paintings: What makes it?
何気ない風景をモチーフにして、絵画の叙情性の表現を制作・研究しています。
17世紀オランダのフェルメールや18世紀フランスのシャルダンは、日常の光景を
ごく自然な様子で描きながら、しみじみとした情緒を感じさせる絵画作品を作り
上げました。
しかし、彼らの作品の叙情性を支えているのは、我々の視覚認識の性質を元に、
感覚や感情を様々な表現技法に置き換え組み合わせた、極めて論理的で精緻な構
成です。
だからこそ彼らの作品は、描かれている内容とそこから感じ取れる感情や物語、
油絵具という材料とその構成が、分かつことなく画面にひとつになり、まるで結
晶のように凝固して輝いています。
カメラの登場により、日常を切り取る行為は、絵画の役目ではなくなったという
のが通説です。しかし、写真が我々の感覚に関係なく否応なく取り込んでしまう
あれこれを、作者がより自発的に取捨選択できるという点で、いわゆる「写実」
と言われるジャンルの絵画は役目を終えていないと考えています。
フェルメールやシャルダンが行っていて、現代の人があまり顧みなくなっている、
「本当に目に見えるものを表現する」ことをもう一度見直すことが私の制作動機
です。
今、私が特に興味を持っているのは「ものがなしさ」という感情です。それは主観
的な悲しみとは違い、我々が見る様々な対象の性質として感じられます。「ものが
なしさ」は「負」の要素をわずかに孕んでいながらも、本質的には幸福に属する感
情のように思えます。苦しいことや悲しいことや、様々な過去を物語として持つ人
だけが持つ+の感情です。
絵画を通じて、そこに情緒性を感じ取ったあとは、自分の過去や目に映る景色に、
物語を感じてほしいと考えています。
大げさかもしれませんが、それが人間にとって今後もっと大事になっていくことだと
思うからです。
PROFILE
松村佳世
1985年愛媛生まれ
京都造形芸術大学修士課程修了
現在、京都在住
主な展覧会・受賞歴
<個展>
2012 絵画的 gallery near(京都)
2014 Middle Land TAMARIBA(京都)
2015 pictoria MEDIA SHOP GALLERY (京都)
<グループ展>
2013 神谷ゼミ展『㎡』 京都造形芸術大学瓜生館
2015 Act Art 2015 Art Complex Center(東京)
<受賞歴>
2015 世界堂絵画大賞入選